文章：背	文章：表紙
わたしは「みんな」を信じない、だからあんたと一緒にいる――。	恵美ちゃん―――僕はこれから、きみと、きみにかかわりのある何人かの子どもたちの話をしようと思う。 最初は、きみだ。
あなたのウチに、変なルールはある？	雨、と彼が言うので、とっさに「虹」と返した。 「ダメだよ。空でつながってる」 「じゃあ、夢」 「バッファロー」 「時計」 「水たまり」 「イカ」 「コーヒー畑」
「……一発おもしろいことしようぜ、ハル」	予想を裏切る展開だぜ、と、一馬は一人でにやにやしている。溝口に向かって「ちょっとそれ貸して」というと、一馬はきれいに四つ折りされていた紙を受け取った。レモン味のシロップで染めたようなその黄色いチラシには見覚えがあった。あれはきっと、今日、スポーツ科学研究室に行く途中、やたらと視界をちくちくと刺激したものだ。
我々の日常の九〇パーセントは、頭の中で起こっている	何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。 なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。
素晴らしき淫売とくそじじいぶりのぼくの家族である。	しかしね。ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、りっぱなことが言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しいような気がする。女にもてないという事実の前には、どんなごたいそうな台詞も色あせるように思うのだ。変な顔をしたりっぱな人物に、でも、きみは女にもてないじゃないか、と呟くのは痛快なことに違いない。
刑事 vs. 獣	お待たせいたしましたと、喉元まで出かかったときだった。目の前で、突然炎が吹き上がった。と、同時に、店内に動物の雄叫びのような声が響き渡った。
「しっ！気をつけろ！やってくるぞ！」	「足あとですか？」「ええ、足あとでした。」「男の足あと？それとも女のですか？」
「わたし、気になります」	「今月の貴女のラッキーアイテムは学校史、金曜日の午後に借りてその日のうちに返すと彼氏とうまくいくかも？」……馬鹿馬鹿しい。
ママがわたしを殺すとしたらどのような方法で殺すだろうか。	腹がへって死にそうだあとあえいでいるわたしに向かってカザリが食べ残しの載ったお皿を差し出すとき、正直、わたしの目には妹が天使に見える。食べかけのグラタンやらよりわけられたにんじんやらを皿に載せた白い羽根を持つ天使である。
驚愕の結末まで、息をもつかせぬジェットコースター・サスペンスが展開する。	「もう一杯注いでくれ。ロン」ライムは酒をストローですすり、セリットーはグラスから飲んだ。薫り高い酒を、どちらもストレートであおった。ベテラン刑事はぎしぎしとやかましい籐椅子に腰を落ち着け、ライムはその姿を見て、「カサブランカ」のピーター・ローレにちょっと似ていると思った。
「ちぃと急がにゃぁいけんかもしれなぁで。」	喬史がふとこちらを振り向いた。 彼の左目の中に青白い光がすいと横切った。
―ところで、新しい店の住み心地はどうよ？	テンコからの携帯メールである。映画の無料券をもらったから今度の日曜にどうよ？という用件のケツに、付け足しの一文だ。
快適な生活を確保するために、人間をどうしつけるか	著者？紹介より抜粋　 交通事故で母を亡くし、生後６週間にして 広い世の中に放り出される。 １週間ほどの野外生活を経て、 人間の家の乗っ取りを決意。 いかにして居心地のいい家に入りこむか。 飼い主を思いのままにしつけるか、 その豊かな経験を生かして本書を執筆。 四匹の子猫たちを理想的な家庭へと 巣立たせたあとは、 いっそう快適な生活を送り続けている
負けるために最善をつくすよ！	約束を破ったら、「脳天ぶち割るからね！」と穏やかでない。恋する乙女は強い。
ふたつとも、とても幸せそうな顔をして・・・・・	ああ・・・・・、オイラのせいで・・・・・。 こんなことになるなら、オイラと出会わなければ良かったのに
猫の手も借りたい、という言葉は聞くが、まさか犬の手を借りていたとは。	犬は私の驚愕の視線に気づくと、ちょっと目を閉じて頷き、ああ、分かった、皆まで言わずともよし、忙しいのだから、と言わんばかり軽くあしらう風、そのまま作業を続けた。
自由に生きるためには 退屈と戦う必要がある。	起こり得る未来、 そこから顔を背けるな、 君達にはいつでも選択が任されている。 別の未来、そして別の過去も。
日は短く星は昴、以て仲冬を正す	少年はその名の通りの春を連れて皇太后宮にやってきた。
百年待っていてください	こんな夢を見た。
陛下、悲劇的事態は進行しつつあり…	これより二日間にわたり、日本の中枢部は改めて熱狂の炎に吹きくるまれた。
古事記に記された出雲神話が決して「古事記」編纂者が勝手に作り上げた神話ではなく、古くから日本の朝廷で語り継がれていた古物語であることを説明しようと思う。	ヤマト王朝においてその前代の王朝鎮魂という神事の主役をなしていたのはずっと物部氏であり忌部氏であった。この物部及び忌部を祭事の主役から追い払い、その主役を中臣・藤原氏に独占させることが「古事記」神話創造の目的であり、その象徴的建物が、驚くべき巨大な建物、出雲大社だったのである。
いいわ……いつもひとりでするんですから	別館の窓ぎはに、一輪の向日葵が咲きでもしたかのやうに、何んだか思ひがけないやうなものが、まぶしいほど、目にきらきらとかがやき出したように思へた。 私はやっと其処に、黄いろい麦藁帽子をかぶった、背の高い、痩せぎすな、 一人の少女が立つてゐるのだといふことを認めることが出来た。
あめゆじゆとてちてけんじや	雪と水とのまつしろな二相系をたもち すきとほるつめたい雫にみちた このつややかな松のえだから わたくしのやさしいいもうとの さいごのたべものをもらつていかう
店内には、少し大きめの音量でモーツァルトの曲が流れていました。	前略　蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。
もっと上を見て、挑戦してみようよ！	野心が車の「前輪」だとすると、努力は「後輪｝です。
私は泣き方を覚えてから、すぐ泣くようになってしまった。	仲良くしてください。 私にはあなたしかいません。 私を信じてください。それだけで私は幸せです。 私は十年くらいしか生きられません。 どうか覚えていてください、私がずっとあなたを愛していたことを。
おじいちゃんはどこ？	おじいちゃんは元気だよ。ただ、いまは心が悲しんでるだけ。
悪党たちは映画館の話をし、暴力をふるう	じゃくにく-きょうしょく【弱肉強食】弱い者が強い者の犠牲にされること。その正当性を維持するため「勝った者が強い」というレトリックも用意されている。
煙突の先の白い煙は、空の青さにとけるように消えていく	人は死ぬと焼かれるんだ。火葬場、というところに運ばれて、お棺が大きなかまどの中にするするっと入ってがちゃん。
あの女には不思議な魔力があるんですな	若い女が桜の幹に身をもたせかけ、その足下に多くの男たちの死体が見えるという構図は、女の美の魔力を示すとともに、男は美の前に滅びることによって運命を全うしうるという、怖るべき思想の表現であったと思われる。
これはルポルタージュでもなければ、人物論でもない。僕としては一人の音楽愛好家として、小澤征爾という一人の音楽家と、率直に、できるだけ腹を割って音楽の話をしたかった。音楽に対するそれぞれの献身（もちろんレベルはまったく違うけれど）のようなものを、素直に浮かび上がらせたかった。	〈村上〉「スコアを読込むというのはいつやるんですか？」〈小澤〉「一日のうでということ？」〈村上〉「そうです。」〈小澤〉「朝ですね。早朝。集中しないといけないし、一滴でもアルコールが入るとできないから」〈村上〉「比べていうのもなんですが、ぼくはいつも早朝に仕事をします。いちばんよく集中できるから。長編小説を書いているときには必ず四時には起きます。まだまわりが暗いうちに、没頭できる態勢をつくってしまう。」〈小澤〉「で、何時間くらいやります？」〈村上〉「五時間くらい」〈小澤〉「僕は五時間はもたないな。四時に起きても、十一時くらいになると、朝飯が食いたくなってくるから（笑）。−−−−−−」
肉体が凶器でした。	彼らはどこから来たのか？ 彼らはどこに来たのか？ 彼らはどこに行くのか？ 彼らは何者か？
私って、いったいいつまで私のままなんだろう。	私たちはなんのために歳を重ねるんだろう。
死人に口なし	日本のパラシュート会社に客から電話がきた。 「（略）パラシュートはもちろん安全ですよね？」「はい、（略）品質には絶対の自信をもっています。」続いて、ロシアのパラシュート会社に客から電話がきた。 「（略）パラシュートはもちろん安全ですよね？」 「はい、故障したという苦情はまだ一件も寄せられていません。」
「　　　　　　　」の意味とは。	ーそれでもわたくしたちは、国家なしでは生きてはいけません。 わたくしたちを生かすもの殺すのも、国家なのです。
何億という人々が検索性同一性障害を発症した。	二○二三年二月二三日。 それが、私たちの世界において、 ネットワークと並行世界の関係が公的に認められた日付けです。 わたしたち自身が、並行世界を夢見ることでようやく現実を認識する―― だから同じように、十分に複雑化し量子化したネットワークも、別の世界の夢を見るようになった。